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大韓帝国の「国璽」に対する疑問 [世相]

10月9日(木)
2014年4月のオバマ大統領の訪韓のお土産にアメリカから韓国に返還された「大韓帝国」(1897~1910年)の「国璽(こくじ)」が大邱博物館で展示されるそうだ。
b4424748.jpg
『大邱新聞』2014-10-08, 21:08:21
http://www.idaegu.co.kr/news.php?mode=view&num=143781
でも、これ「国璽」だろうか?

「国璽」は国家権力の標章として捺される印だが、東洋における歴史は意外に新しい。
日本では、古代律令天皇制の時代には、「内印(天皇御璽)」と「外印」(太政官印)」だけで「国璽」は存在しなかった。
「国璽」に近い印の最初は、1860年(万延元)「日米修好通商条約批准書」に捺されている「「日本政府之印」(方3寸4分)で、これは徳川幕府の老中堀田正睦が定めたものらしい。
イギリス、アメリカなどは以前から「国璽」を使っていた。
アメリカと条約を結ぶに際して、徳川幕府が日本国を代表していることを示す印象が必要だったのだろう。

本格的な「国璽」は、明治新政府になってからで、1971年(明治4)年5月大蔵卿伊達宗城を全権大使として清に派遣する際に、篆刻家の小曽根乾堂に命じて新たに「大日本國璽」(方2寸9分)の石印を製作した。
国璽(日本)1.jpg
その後、1874年(明治7)4月に金属製に改められた。
国璽(日本)2.jpg
↑ 「睦仁」は明治天皇の「御名」。
「国璽」の使用については、1886年に「公文式」(明治19年勅令第1号)、次いで1907年に「公式令」(明治40年勅令第6号)によって明文規定された。
「公式令」によれば、国書その他の外交上の親書、条約批准書、全権委任状、外国派遣官吏委任状、名誉領事委任状、外国領事認可状、及び勲一等功二級以上の勲記には親書(御名=天皇の名)の後、国璽を押し、勲二等功三級以下の勲記には国璽のみを押すとされた。

おもしろいのは、この「「大日本國璽」が、大日本帝国憲法から日本国憲法になった戦後になっても、「大日本」の印影のまま使われて続けていること。
公式令は1947年(昭和22)5月3日の内閣官制の廃止等に関する政令(昭和22年政令第4号)により廃止されたが、そこれに代わる法令はなく、国璽の使用は慣例によって踏襲されている。
外交文書以外には、勲記や褒状にも押される。

日本以外では、東洋における印象使用の本家である中国の中華民国(1911~)の「国璽」が知られている。
国璽(中華民国).jpg
↑ 1952年の「日華平和条約批准書」に捺された「中華民国璽」。
署名している「蒋中正」は蒋介石総統。
大清帝国の「国璽」が知られていないことからも、「国璽」は新しいものであることが察せられる。

つまり、「国璽」は近代的な国家概念の成立に伴って使われるようになったと考えられる。
したがって、「国璽」は、「大日本国璽」や「中華民国璽」のように「国名+璽」という印文になる。
大韓帝国の国璽だったら、「大韓帝国璽」になるはずだ。
ところが、今回の記事で紹介されているものは「皇帝璽」であり、国名がなく明らか様式が異なる。
国名がなければ「国璽」として機能しない。
つまり、これは「国璽」ではない。
むしろこれは、「御璽」の様式に近いと思う。

19世紀後半に使用されるようになった「国璽」に対して「御璽」の出現は圧倒的に早い。
日本における「御璽」は、701年(大宝元)の大宝律令に「内印(天皇御璽)」の規定があり、方3寸(約9cm)とされている。
実際に捺された例は、奈良時代の正倉院文書などにある。
御璽(国家珍宝帳).jpg
↑ 「国家珍宝帳」(756年=天平勝宝8歳)に捺された「天皇御璽」
御璽(現行).png
現在、使われている「天皇御璽」(↑)も、書体、大きさ(3寸)ともに、古代とほとんど変わらない(と言うか、古代のものに似せている)。
ただし、律令制の規定では、御璽の捺印は少納言の仕事だったが、昭和天皇、今上天皇は御自ら捺されている。
もちろん、やたらと重い(3.55kg)ので、侍従が介添えするが・・・。

大韓帝国の「皇帝御璽」は、高宗皇帝が用いて、その後、国外に流出した「御璽」を、韓国の故宮博物館が購入し、本物であることが検証されている。
http://japan.hani.co.kr/arti/culture/1087.html
御璽〈大韓帝国〉.jpg
これは「御璽」の様式として問題なく、真贋には異存はない。

しかし、最初にあげた「国璽」とされるものは、先に「『御璽』の様式に近いと思う」と書いたが、「皇帝」と「璽」の間に当然あるべき「御」の字が無い。
これでは「御璽」とも言えない
そんな印文が有る得るだろうか?
少なくとも日本では有り得ない。
正直かなり疑問である。
真贋の判定には慎重を要すると思う。

ここまで書いて、今回の展示品の写真を見つけた。
国璽(大韓帝国)2.jpg
http://japanese.visitkorea.or.kr/jpn/MA/MA_JA_9_6_1.jsp?cid=1920179
最初にあげた「国璽」とされる「皇帝璽」は形態から奥右から2つ目と思われる。
2009年に韓国に戻った「皇帝御璽」はいちばん左側のもの。
『大邱新聞』の記事の画像の選択がおかしい!
いちばん重要な印が無視され、そうでないものが選ばれている。

そして、さらに重要なことに気づいた。
韓国の記者は「御璽」と「国璽」の違いに気づいていない(知らない)。
ごっちゃに「国璽」としている。
おそらく印面の漢字も読めていないだろう。
それが記者だけならまだしも、もしかして博物館の学芸員も・・・?という不安がある。

ああ、いろいろ考えて書いて損した。
私の世代は、中国や日本と同じように「韓国を漢字が読める国」だと思ってしまう。
少なくとも20年前まではそうだった。
でも、今はもう違うのだ。

【追記】
画像を見ただけだが、「大邱新聞」の写真のものも含めて奥の右から3つは、直感的にかなり贋物っぽい気がする。
印文に疑問があるだけでなく、鈕(ちゅう、=つまみ)の部分の彫が甘く、何の動物を意図したのかよくわからない(鈕の動物にも意味がある)。
骨董屋に出ていたとして、少なくとも私は手は出さない(まあ、980円だったら贋作を覚悟で買うかも)。

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丁子屋

こんにちは

 日本はハンコの国というけれど、ハンコを粗末にする文化?
 どこでも買える 3文判で相当のことができる。
 印鑑証明付の実印を使うことって 庶民では年に数回どころか、生涯数えるほどしか使うことはない。
 その実印だって印面印字は機械彫がほとんどだからなぁ。
 名のある篆刻家といわなくとも 街のハンコ職人が手彫りするなんてことないよねぇ
 それに国璽 御璽のおされた書類なんて、元教員、元公務員、消防団長の葬式で勲5等か6等の状でみるくらいかなぁ。

 そういうわけで、日展の篆刻部門の不正なんてどうでもいい話なんだと思うが、なぜか 大騒ぎになったのは去年だっただろうか
by 丁子屋 (2014-10-10 14:41) 

三橋順子

丁子屋さん、いらっしゃいま~せ。
日本の印判(はんこ)文化の実際は、まあおっしゃる通りです。
その点、やはり中国は(台湾も)篆刻文化の厚みが違います。
韓国はそうした漢字文化を全部棄ててしまおうとしているわけで、自国の歴史文化的な厚みを自ら削いでしまうという「壮挙」を実行しているわけです。


by 三橋順子 (2014-10-11 01:41) 

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